役員退職金の“功績倍率”が高いのはなぜ?

~税務上の根拠と適正額の考え方を解説~

役員が退任する際に支給される「役員退職金」。
実は、**税制上“給与よりも有利な扱いを受ける”**ことから、長年にわたり節税策として活用されてきました。

中でも注目されるのが、「功績倍率(こうせきばいりつ)」という考え方。
退職金の金額を算出する際に使われる指標のひとつですが、一般従業員と比べて役員の功績倍率は“高め”に設定されていることが多いのです。

今回は、その理由や背景、適正額の考え方まで、税務的な視点を含めて解説していきます。

目次

功績倍率とは?

まず、退職金の計算式を見てみましょう。

退職金 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

この式の中の「功績倍率」が、役員退職金を決定する上での重要なカギとなります。

例えば、最終月額が50万円、勤続20年、功績倍率が3.0の場合:

50万円 × 20年 × 3.0 = 3,000万円

これが、役員に支払われる退職金の基準額になります。

なぜ功績倍率が高くなるのか?

一般の従業員の功績倍率が「1.0〜2.0」であるのに対し、役員は2.0〜3.0、場合によっては5.0以上になることもあります。

その背景には、以下のような理由があります。

① 経営責任の重さ

役員は会社の経営全般に責任を負っており、日々の意思決定が業績に直結します。
その重責に報いる意味で、退職時に報酬として手厚く支払うのは合理的と考えられています。

② 業績や企業価値への貢献

長年にわたる経営努力により、企業を成長・安定させた役員には、功績への評価として“報酬以上の退職金”が認められるケースが多いです。

③ 法人税法上も一定の裁量を認めている

税務上、役員退職金は“給与所得”ではなく“退職所得”として扱われ、課税上の優遇(退職所得控除・1/2課税)が受けられます。
ただし、「不当に高額な金額は損金不算入(=経費にできない)」とされるため、功績倍率の妥当性が審査のポイントになります。

功績倍率の目安とは?

国税庁や税理士会では、以下のような「一般的な功績倍率の目安」が示されています。

役職一般的な功績倍率
取締役2.0 ~ 3.0
代表取締役3.0 ~ 5.0
会長・創業者5.0 以上も可

※ただし、業種・会社規模・業績などに応じて調整が必要です。

功績倍率の決め方と注意点

功績倍率を設定する際には、次のような点に留意する必要があります。

◎ 客観的な基準をもとにする

  • 勤続年数
  • 経営実績(売上・利益の成長)
  • 自己資本比率の向上
  • 社員数の増加など

こうしたデータを整理し、「この功績倍率は妥当である」ことを第三者が見ても納得できる資料を揃えることが重要です。

◎ 税務署は“類似法人との比較”を行う

過去の判例や指導例では、同業他社と比較して明らかに高額であると否認されたケースも存在します。
そのため、税理士の専門的なアドバイスを受けながら設計することが望ましいです。

節税としての活用方法

役員退職金は「退職所得」として課税され、以下のような税制優遇があります。

  • 退職所得控除(勤続年数×40万円 ※20年以上は加算)
  • 課税対象額の1/2計算

つまり、同じ金額でも給与所得よりもずっと低い税率で済むのが大きなメリットです。

加えて、法人側も「適正な額であれば損金(経費)として認められる」ため、法人税の節税にもつながります。

まとめ:功績倍率は“感覚”ではなく“戦略”

役員退職金は、経営者が最終的に受け取る大きな報酬のひとつ。
その設計には、功績倍率という“数字の裏付け”が求められます。

“いくらまで出してよいか?” “どのタイミングが最も節税効果があるか?”
迷ったら、ぜひ専門家にご相談ください。

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